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らいおん建築事務所 らいおん建築事務所

《 Renovation Interview 》住みたい部屋は自分でつくる、カスタマイズ賃貸 ” 目白ホワイトマンション “

山手線で池袋から1駅。骨董屋通りや閑静な住宅街が広がる、目白。そこに、賃貸にも関わらず、インテリアを自分の好きなようにカスタマイズできる賃貸マンションとして2014年に話題になった、目白ホワイトマンションがあります。その斬新な手法を受け入れてくれた オーナー 兼 不動産屋さんの浅原賢一さんと、自分の理想の部屋を作り上げた竹沢愛美さん、そして、竹沢さんからそのお部屋を引き継いで現在お住まいの小林杏子さんに、 ” 目白ホワイトマンション ” を巡るストーリーと今をインタビューいたしました。

 

ー どのような経緯で、” 目白ホワイトマンション ” が生まれたのですか?

嶋田:一番最初は、浅原さんの妹さんから、「所有管理しているマンションが空室で困っているので見てくれないか」という相談をいただいたことがきっかけでした。

目白ホワイトマンションの屋上から

嶋田:早速見に行ってみると、4部屋ほど空室になっていて、そのほとんどが、僕が “ 残念なリフォーム “ と呼んでいた部屋でした。
建物全体はレトロさが魅力なのに、その部屋は、内装がピカピカの新築のようにリフォームされていて、レトロなテイストが好きで惹かれた人が、中の部屋を見ると「えっ!レトロ??新築??どっちなの!?」って思ってしまうような(笑)。全体を考えた時に、コンセプトがちぐはぐになってしまっていたんですよね。

目白ホワイトマンションの外観。レトロで個性溢れる存在感

嶋田:それで、困ったなぁと思っていたら、
浅原さんが絶対に見せてくれない部屋が、1部屋だけあったんです。
「嶋田さん、ここはちょっとまずいです…」と。
「浅原さん、いいから見せてください!!」って開けたら、ボロッボロの部屋が出てきて。(笑)

竹沢さん:私は ” お化け屋敷 “ って呼んでました。(笑)

嶋田:僕はこれを見たときに「やった!なんとかなる!」と思いました。

そこで、浅原さんに「入居する人が好きなようにインテリアを作れる ”カスタマイズ賃貸 ” をさせてもらえませんか?」と提案をしたんです。

ー “ カスタマイズ賃貸 ” 。魅力的な響きですが、どのような賃貸なのでしょうか?

嶋田:この ” お化け屋敷 “ を、まずは、らいおん建築事務所が借りて、そのリフォーム費用を、浅原さん・入居者・らいおん建築事務所の3人で少しずつ出し合い、入居者が好きなように自由にインテリアを作り変えられる部屋を賃貸するというリノベーションの仕組みです。

▽ 話題になった “ 目白ホワイトマンション ”。当時の記事も合わせてお読みください!
SUUMO「 住人の『好き』を大切にしたら、長く愛される家になった 」

▽ “ カスタマイズ賃貸 ” の仕組みはこちら。
SUUMO「 200万円の改修費用をどう負担? 貸主も借主もうれしいDIY賃貸のしくみ 」

 

オーナーのお兄様であり、元建築設計士の不動産屋さんでもある、浅原賢一さん

浅原さん:その頃ちょうど、目白ホワイトマンションは築40年になっていて、元々は4畳半と6畳の和室の二間(ふたま)だったんですよ。当時は、こういうレトロな雰囲気のマンションがなかったので、外国の方も好んで住んでくれていたり、単身者の方もいれば、家族3〜4人で住んでいたり、様々な方に愛されるマンションでした。でもやっぱり時代の流れもあって、お風呂もユニットバスに変え、床はフローリングに変えてと現代風にアレンジしていって。最初の頃はそれでも入居者がいらっしゃったのですが、そのうち周囲にどんどん綺麗な新築のマンションが建ってきて、いっきに空室が増えるようになりましたね。家賃を下げても入らず、1つ、また1つと空室が増えていく、そんな歯がゆさがありました。

そんな時に、嶋田さんからの ” カスタマイズ賃貸 ” の提案でしたから。しかも、なんとあの ” お化け屋敷 “ を借りると!こちらは、タダでも綺麗にしてもらえるなら、それはありがたい話だなと思って「やってみよう!」と決断しました。

家族が所有しているということもあって、決断できました。
嶋田さんに連絡をしたら「実は、もう入居したい人がいる」と!(笑)
どんな人なんだろうと思ったら、若い女性だというのでものすごく驚きました。


初代カスタマイズ賃貸住人の、竹沢愛美さん

竹沢さん:その頃、ちょうど30歳になった頃でしたね。

嶋田:少し前に、竹沢さんが「次引っ越すときは、DIYできる賃貸に住みたい」って言っていたのを思い出したんです。

竹沢さん:DIYするなら、自分で中古物件を購入しないとできないと思っていたし、当時は、カスタマイズ賃貸と言っても壁紙選ぶくらいしかできない物件ばかりだったんです。
嶋田さんからお話があったときは、「ぜひ!」って思いました。

ー 奇跡の3人が出会いましたね

嶋田:そうですね。おそらく通常リフォームすると、1部屋あたり数百万の費用がかかります。しかも、4部屋リフォームすると1千万、2千万の世界になる。その投資はオーナーさんにはきついと思いました。それであれば、入居者の暮らしたいニーズに合わせて ” お化け屋敷 ” が、がらっと生まれ変わる、“ カスタマイズ賃貸 ” を起爆剤にするのが良いのではないかと思いました。オーナーさんの手間とかけるお金を最小限にして、最大の効果を生み出す。

浅原さんにもご承諾をいただいたので、毎週のようにみんなでワークショップする “ DIY 祭り” を開催していこうと、プロジェクトを進めていきました。

ー “ DIY 祭り” 楽しそうですね。

竹沢さん:毎週やりましたね。塗装は、Facebook でイベントページを作って呼び掛けたら、沢山お友達が来てくれて。(笑)

嶋田:ワークショップの時には「SUUMO」や「HOMES」のメディアの方も参加してくれて、完成する前からメディア掲載されて話題になりました。DIYしながら取材してくれましたね。(笑)

▽ ワークショップ取材の記事がこちら。当時の記事も合わせてお読みください。
SUUMO「 女子一人でもここまでできる! プロと楽しむDIYの現場に潜入 」

嶋田:そして、ワークショップ参加者から「住みたい!」っていう方がどんどん現れてきて、あっという間に空室が埋まりました。オーナーさんとしても、費用がかからず、素敵にリノベーションされていくのは嬉しいですよね。

浅原さん:そうですね。しかも次に貸す方には、家賃を少し上げて賃貸できるという好循環。おかげさまで、6年たった今も満室です。

当時、日経MJ 1面(2014年5月23日発行 )にも掲載

ー 当時の新聞にも大きく掲載されていますね。

竹沢さん:その新聞では、私一人でやったみたいになっちゃってるんですけど。(笑)

キッチンやこだわりたいところは、嶋田さんに設計図面を書いてもらいました。
私は、法律が全然わからなかったので。木でキッチンを作りたいと相談したら、コンロはダメなのでIHにしましょうと提案してもらいました。
あとは、作るのに職人の技が必要なところは、ハンディハウスプロジェクトの中田さんが手伝ってくれたからできましたね。やっぱりプロに寄り添ってもらわないと難しいなと思います。

ー すごいプロジェクトメンバーですね。

浅原さん:でも面白くて、他の部屋もそうですが、転居してもちゃんと次の入居者の方がすぐ決まるんです。

竹沢さんもめでたくご結婚されて、引っ越すことになったんですよね。

竹沢さん:はい。結婚しても引っ越したくなくて、最初は旦那さんに来てもらってたんですけどね(笑)
妊娠がわかったタイミングで、流石に狭いなとなって、「このお部屋の ” 次の住人 ” はどうしよう」って思ったんですよね。
引っ越しをする時に、次の住人のことが気になることってないですよね(笑)

それで、私の旦那さんの会社の同僚の小林さんが入ってくれることになりました。

ー 愛着がありますね。(笑) 小林さんは、ちょうどお部屋を探してたのですか?

小林さん:はい。会社で引っ越し先を探してる話を大声でしてたら、竹沢さんの旦那さんが、「うちに来なよ!」って話が始まって。本当にご縁でしたね。

ー 内見していかがでしたか?

小林さん:私の予算で住める他の候補物件は小さくて画一的な間取りで、兎小屋みたいだなって絶望していた時だったので、目白ホワイトマンションは、輝きが違いました。マンションが発してるエネルギーが違う!って。(笑)入居前に、竹沢さんに他の住人の方をご紹介いただいたのですが、みなさん素敵で・・・。

そして決め手は、「目白ホワイトマンションに住むと、絶対に人生が好転する」という噂があって。(笑)

竹沢さん:当時「ゼクシィマンション」って呼ばれてたんですよね。(笑)

ー 是非、幸運のお部屋を拝見したいです。

竹沢さん:さて、愛着部屋をちゃんと育てられているか!
あのお部屋に来るのは、引っ越して以来ですね。ワクワクします。(笑)

 

(屋上から、お部屋へ移動。レトロな階段を降りていきます。)


ー すごい。この壁のようなものは・・・。(写真、左側の壁)

竹沢さん:これはコンクリートブロックです。壁を剥がしたらコンクリートブロックが出てきて、このまま塗ったら可愛いんじゃないって。

小林さん:ここが好評です、友達が来ても。

ー お部屋の中に、洗面台があるのも嬉しいですね。

竹沢さん:お風呂場の方でやるの嫌だったんですよね、歯磨きとか(一同頷く)。

小林さん:実際に住んでみて、生活動線がしっかり考えられていることに感動します。
朝起きて、ここで顔洗って歯磨いて、コーヒーを淹れて。生活の中のルーティンが心地よくこの空間の中でおさまるんです。
お化粧するのも、お部屋の中にある洗面台だと明るくて良いですよね。

竹沢さん:そうそう。冬場はお風呂だと寒いし、シンクも狭いと嫌だよね。

当初は、洗面台の下に、私の祖母の形見のミシン台を使っていて。
ミシン台にそのシンクをポンっと乗せて。それで、この部屋を形見を意味する ” memento ” と名前をつけて呼んでいました。

さすがに他人のおばあちゃんの形見を置いていかれても困ると思って、退去する前に無垢材とアイアン脚の台に交換しました。

らいおん建築事務所の設計・HandiHouse projectの職人技術により完成した、こだわりの天板木板キッチン

ー 木のキッチンって初めて見ましたが、すごく素敵ですね。

しかもリビングに繋がっているので、2人で住んでて、1人がお料理してても一緒の空間にいる感じがして良いですね。

竹沢さん:友達来てホームパーティーをしても、作りながら喋っていられます。(笑)

現住人の、小林杏子さん

ー 小林さん、住んでみいかがでしたか?

小林さん:最近、特に新型コロナウイルスの影響で、家にいる時間も増える中で、改めてここに住んで良かったなと感じています。

お部屋だけでなく、周辺環境もいいんです。庭の木が、風に揺れる音が聞こえたり、朝に鳥が鳴いていたり、とても癒されますね。
一階にファミリーが住んでいて、お子さんが2人いらっしゃって、平日も庭のビニールプールで遊んでるんですよ。ちょうどこの窓の下なので、家で仕事をしてると、バシャーン!キャッキャッ!みたいな声が聞こえる(笑)
丸いビニールプールを想像してたら、アメリカンサイズでびっくりしました。
幸せな風景ですね。(笑)

しかも、旦那さんが革細工をされていて、家の半分をアトリエに。土日はギャラリーとしてオープンしているようです。

ー 様々な ” 生活音 ” が、とっても素敵ですね!

小林さん:お豆腐屋さんのラッパの音が聞こえることもありますし、ほのぼのとした生活音がする点もお気に入りですね。ベッドに寝転がって、周りの音を聴きながら、空の色が変わっていくのをただ眺めていたら休日が終わってたなんてこともありますよ。(笑)

最近、ギターアンプを買ったので、音楽も流しながら、家での暮らしを楽しめるようになったのもすごく良くて。都会の喧騒を忘れさせてくれる住環境に恵まれて幸せです。

外には木々が広がり、プールではしゃぐ子どもたちの声が聞こえる

竹沢さん:景観もいいですよね。

小林さん:そうなんですよ。ちょうど窓の外に緑が抜けてて。
窓際のの花瓶に陽が差して、ギターの陰に光が当たる感じがとっても好きで。そんな夕方がこの家の特に好きな時間帯です。この家にいると、流れる時間がゆっくりな気がするんですけど、それも最近は心地よいです。年齢的に、この家との波長が合ってきたのかもしれないですね。(笑)

ー 周りの音も聞こえるんですね。

小林さん:古い建物だからそれなりに音が聞こえるんですけど、それがあまり不快に感じないというか。誰か帰ってきたな、とか。あ、隣の家がアレクサ導入したな、とか。(笑)アレクサの声、結構響くんです。(笑)

ー それ、ちょっと面白い。

竹沢さん:私も、旦那さんとふたり暮らしの頃は、隣の部屋には友達が住んでいて、「笑い声だけ聞こえる。幸せそうで何より」って言われました。(笑)

ー 昔の長屋のようで、一緒に生活をしている感覚があって良いですね。

小林さん:唯一の悩みは、引っ越せないことくらいじゃないですかね、本当に!
引っ越す理由がなくて。(笑)

竹沢さん:「引っ越せない」って思わせてくれる賃貸って、すごいですよね。

ー それが「ゼクシィマンション」の由来なのかもしれないですね。
大きなライフイベントがない限り、居心地がよくて、引っ越す理由がないということかも。

竹沢さん:隣の人も同棲してて、結婚して子供ができて引っ越したんですよ。

小林さん:その次の方もそうでした。

全員:やっぱり!(笑)

 

ー 本日は、お2人の素敵なお部屋を見せていただいて、ありがとうございました。

竹沢さん:気に入って住んでくれているのが、わかって良かった。

小林さん:本当にそうなんです!!感謝が止まりません。

竹沢さん:前に住んでた人に、感謝することってなかなかないよね。(笑)

photo by Aya Ikeda