2020.11.12
VOICE
静謐な空気が広がるオフィス、渡辺潤平社

東京2020オリンピック日本選手団応援キャンペーン「全員団結」など、数々のコピーライティングをされている渡辺潤平さんのオフィスの設計をらいおん建築事務所が手掛けました。神社の目の前にあり、澄んだ静謐な空気と建物が一体となるような、渋谷の一角にあるオフィス。細い外階段を登り扉を開けると、そこには可愛らしい待ち合いスペース、そして内階段で登った先には、広くて居心地のよいオフィスが広がっていました。

リノベーションから8年、渡辺潤平さんにお話を伺いました。

 

ー  いつ頃、オフィスのリノベーションをされたのでしょうか。

渡辺さん:ちょうど震災の翌年に移ってきたので、もうかれこれ8年経ちましたね。

ー  お2人の出会いのきっかけを教えてください。

嶋田さん:渡辺さんとの出会いは、僕がみかんぐみに勤めていた頃、鹿児島市の天文館にある商業施設マルヤガーデンズのプロジェクトでご一緒させていただいたのがきっかけでしたね。渡辺さんが、コピーライターとして携わられていて、マルヤガーデンズを “ デパートメント( Department )からユナイトメント( Unitement )へ ” と表現されているのがとても印象的でした。

渡辺さん:一般的な百貨店は「デパートメントストア」と呼ばれますよね。ですが、当時、みかんぐみやナガオカケンメイさん、山崎亮さんたちとマルヤガーデンズを作っていく中で、” 人々が行き交う場にしていきたい ” という想いを言葉にしたら、「部門」を意味する“ デパート( Depart )” と正反対の “ ユナイト( Unit )” (「つながり」の意味)になりましたね。

思い返すと、嶋田さんと2人で深夜に「のり一」というラーメン屋さんに出かけましたね。(笑)

嶋田:はい。プロジェクトが終わって初めて二人で飲みましたよね、楽しかったです。(笑)

ー  どのような経緯で、オフィスをリノベーションをすることになったのでしょうか。

嶋田:マルヤガーデンズが終わった後、僕が独立して、それからしばらくして渡辺さんがオフィスの移転を考えているとお話をいただきました。

そういえば、渡辺さんは、物件サイトを見るのが趣味でしたよね。

渡辺さん:はい、古い建物が大好きなんです。この建物とも運命の出会いでしたね。(笑)

ここは渋谷エリアですが、金王八幡宮が目の前にあって、緑も豊かで空気も澄んでいて、とても気持ちが良い場所。それに加えて、築1981年のこの古さが気に入ってしまったんですよね。

ただ、僕の前に借りていた方が、かなりセルフリノベーションをしていて、建物の中は原形を留めていない状態でした。でもこのまま借りて、うまくリノベーションをすれば、気持ちの良い空間になりそうだと思って、その時にふと、嶋田さんを思い出してすぐにお声掛けさせていただきました。

ー そうだったのですね。渡辺さんからは、どのようなオーダーをされたのでしょうか。

渡辺さん:靴のまま上がれる事務所にしたいと。僕、靴を脱ぐと妙に落ち着いてしまって緊張感を保てなくて。

そして会議スペースを中心にした、広くて居心地のいい空間にして、皆が来てくれるような事務所にしたかったんですね。おかげさまで、僕自身がいつもお茶の間にいるように、一日中このテーブルのどこかに座っています。(笑)

ー 嶋田さんは、初めてこの物件を見た時にどう思われましたか。

嶋田:一番最初に見に来たときには、ほとんど完成していましたね。(笑)

ーそうなんですか。渡辺さんは、「原型を留めていない状態だった」とおっしゃってましたが。(笑)

嶋田:確かに、白いペンキを塗っているところと塗っていないところなど、塗りにムラがあったので、壁の気になるところは塗り直しました。床も、基本的にはそのまま活かして、木がささくれだったり傷んだりしている箇所は補修しました。

嶋田:一番は、渡辺さんがご要望の会議スペースをいかに居心地よくするかに力を注ぎましたね。ここに色々な方たちが集まって、大人数で会議ができて、そして、居心地の良さと遊び心が同居するような空間にしたいなと。

あとは、資料や本も多かったので、空間を引き立たせるような本棚にも力を入れましたね。(笑)

ー 確かに内階段の壁もミント色で、遊び心が感じられますね。

渡辺さん:学生さんを呼んで、ワークショップをしましたよね。

嶋田:はい。当時、僕が非常勤講師をしていたインテリアの専門学校の学生さんたちに手伝ってもらいました。

あの階段だけは、雰囲気を変えたかったんです。

内階段を上がってきたら、ぱっと空間がひらけるように、このミント色にしています。

ー 2階の待ち合いスペースも素敵ですね。渡辺さんからどのようなご要望をされたのですか。

渡辺さん:2階はどうしたらいいですかね、と、ご相談した記憶があります。(笑)

嶋田:確か DVD か何かに嵌っていませんでした?

渡辺さん:少女時代にハマってましたね。(笑)

嶋田;そうだ!そのDVDを観るための部屋として作りましたよね。(笑)

ー 趣味部屋のイメージですね!

嶋田:実は上のオフィスよりも、家具や照明器具もこだわっていまして。

渡辺さん:すごくラグジュアリーな、少女時代ルームです。(笑)

というのは冗談で、実際には、クライアントの待合室として重宝しています。

前の打ち合わせが長引いたら、お待ちいただけるスペースとして本当に助かっています。

ー もうすぐ10年になりますね。オフィスとして使われてみていかがですか。

渡辺さん:もう他のオフィスに移る気がしないですね。(笑)

来てくれる人も、気に入ってくれています。窓の外に見えるのは、神社の鳥居なんですが、元々ここも境内だったそうで、神社の土地なので新しく建物が建つこともなく景観も変わりません。緑も豊かで、空気も澄んでいて気持ちが良い。

この辺りの飲食店もほぼ知り合いになったので、一番落ち着く場所になってますね。

家よりも落ち着きますよ。(笑)

あと、趣味で始めたバスケチームの宴会もここでやっているので、狙い以上の場所になったという感じがありますね。「潤平さんの事務所のような感じにしたいんだけど」というお問い合わせもよくいただきます。やっぱり広告業界の方のオフィスは、個性的であるかとか、トリッキーな仕掛けがあるかに重きが置かれるのですが、僕はいかに実用的で、居心地が良いかということに関心があります。そこで、当時みかんぐみがやってることもすごく好きでしたし、嶋田さんの考え方もすごく好きですし、マルヤガーデンズの雰囲気もとても素敵だったので。

思った通りになってくれたと思っています。

渡辺さん:本当に良いオフィスを作っていただきました。とても良かったです。

嶋田:僕も嬉しいです。久々にこの空間に来れて、渡辺さんに会えて本当に良かったです。

また遊びに来ます。

photo by  Kai Nakamura, text by Motomi Matsumoto