前回は、国見町の八島さんに、駅前の書庫だった公共施設が、コラーニング施設 ”アカリ” に生まれ変わったお話を伺いました。”アカリ” は、公共施設であるものの、運営は、株式会社 家守舎桃ノ音(やもりしゃもものね)が行なっています。その代表である上神田健太(かみかんだけんた)さんと渋谷朝洋(しぶやともひろ)さんが、どのようにプロジェクトに参加し、この官民連携の取り組みに参加することになったのか、お2人のストーリーをお届けいたします。
都庁の公務員から、国見町の建設会社へ。上神田さんのストーリー
ー上神田さんは、元々都庁にお勤めだったそうですね。どのような経緯で、この土地で家守舎桃ノ音を立ち上げることになったのですか?
上神田さん:僕は、岩手県の出身で、大学で建設学科の都市計画を勉強していました。
まちづくりをやりたくて、都庁に就職したのですが、全然希望の部署に配属されなかったんですよね(笑)。土木課だったので、地下の構造物を作っていました。
そうして休みの時間を使っては、興味がある美術館のイベント企画や運営のお手伝いをしていましたね。当時、東東京が面白くなり始めていたので、蔵前でお店をやってる方に取材に行ったり、撮影をしたり。楽しかったですよ。
ー 当時、CENTRAL EAST TOKYO(セントラルイーストトーキョー)といって東日本橋や馬喰町などが、クリエイターによって面白いまちづくりが行われていましたね。
上神田さん:はい。若手のクリエイターさんが、空きビルを斬新にリノベーションして、お店をオープンしていて、色々と調べていると、” リノベーションまちづくり ” に辿り着いたんです。そして馬場正尊さんや嶋田さんが リノベーションスクール を開催していることを知って、自分も参加したのがきっかけです。
ー なるほど。すると、国見町へはどのような経緯で?
上神田さん:実は、その東京のリノベーションスクールに参加した時、福島に帰ることが決まっていて。都庁に7年くらい勤めましたが、公務員の仕事はもういいかなと、パートナーの実家が、国見町で建設会社を営んでいたので、自分からやらせてほしいとお願いしました。東京にいる間にリノベーションスクールに通って、ノウハウを持って、福島でリノベーションまちづくりをやろう!と決心していたんです。
イタリアから帰り、国見町でシチリア料理店をオープン。渋谷さんのストーリー
ー 渋谷さんとは、どのような出会いだったのでしょう?
上神田さん:そうして国見町の建設会社に就職し、最初の1年間は、働きながら地元の面白い事業者を探していました。
ちょうどその時、国見町出身で今イタリアに行っている方がいる!という噂を聞きつけて。(笑)それが渋谷さんでした。知り合いを通じて、渋谷さんに、イタリアから帰ってきたら会いましょうと連絡をしました。
ー 渋谷さんのストーリーを詳しく伺ってもよろしいですか?
渋谷さん:僕は、高校を卒業してすぐ、料理の世界に入りました。震災の後のタイミングで、勤めていたお店を辞めて、自分のお店を開きたいなと考えていたんです。
そして自分でお店を開くなら、10年後、20年後も愛されるイタリア料理のお店をやりたいと思い、まずは2年間ほどシチリアに料理修行に行きました。
そして帰ってきて、どこにお店を開こうかと探していたんですよね。
気仙沼ではマグロなどの鮮魚があがってくるので、シチリアの環境と似ていました。
しかも、農家さんとの繋がりもあったので、採れたばかりの農産物を新鮮なまま出せるなと。そうすると自然と、お店は都市部の駅前ではなくて、こういう田舎がいいなと思っていました(笑)
でもなかなか良い場所に出会えなかった頃、このプロジェクトで一緒にやらないかと、上神田さんに声をかけていただいたんです。
2人が出会い、コラーニング施設 ”アカリ” が生まれる
ー 行政としては、どのようにお2人と関わっていたのですか?
八島さん:行政としては、2人の夢が実現できる場所探しの協力をしていました。
最初は、空き家を探していたのですが、なかなか良い物件が見つからなくて。
公共施設の書庫が選択肢としてあがってきたときに、「あそこ良いと思うんだよね」って、早速、みんなで物件を見に行って。嶋田さんも2人もこれだったら使えそうだという話になって、ここに賭けようということになりました。
ー 皆さんそれぞれやりたいことがあるのに、上手くまとまりましたか?
渋谷さん:難しかったですね(笑)。でもアカリだけではなく、エリア全体で運営を考えていかないとダメだというビジョンは共有できていました。アカリを学びの場所にしようと、話し合っていたこともあって、想いで繋がっていたのだと思います。
ー とても素敵な場になりましたね。
上神田さん:1階は、渋谷さんのシチリア料理店とフリースペースがあって、2階は、無料で利用できる学習スペースと、有料のシェアオフィス10室で運営しています。
シェアオフィスは満室で、新規入居をお断りしている程。地域おこし協力隊、ITコンサル、クリエイターの方々、東京の会社のサテライトオフィス、大学生の起業家など、多様性溢れる方々に利用いただいています。
2階の学習スペースでは、国見町の中学生たちがいつも勉強をしていますね。収益化にも成功していて、アカリの収益の中から、次の事業のための工事費に回し、堅実に事業を拡大しています。
渋谷さん:レストランにも、まちのおばあちゃんやおじいちゃんも毎日来てくれます。
ナイフとフォークを持って、福島の人口 8500人のまちで、イタリアの話が飛び交っています。福島県の最北端にある国見町とイタリアのミックスカルチャーという、面白い文化が生まれていますよ。
“アカリ” のこれから、国見町の未来
ー 今も十分順調だと思いますが、これからどのようにしていきますか?
上神田さん:目の前の月極駐車場を、エコタウンにしようとしています。
ー え!月極駐車場をエコタウンに?
渋谷さん:はい。アカリを起点に、事業を面として広げていきたいと思っています。最初は空き家を借りようと思っていたんですが、全然借りれる空き家がなくて、駐車場なら空いてると。(笑)
既にカフェをやりたいっていう人が、隣町の伊達市から事業計画を持ってきているんです。
ボランティアのような形にはなりますが、新しく何かを始めたい方が国見町に相談にきた時に、いろんな人脈やノウハウをサポートできるチームを作りたいと思っています。
やりたいことの業種もいろんな業種に対応できるように、まちの様々な人たちが、相談者が現れたら、無償でも手伝うよ!という賛同を募れる仕組みを考えています。
ー 行政としては、どのような想いですか?
八島さん:これまでまちづくりを行政主体でやってきましたが、これからは若い人たちが行うまちづくりをサポートしていきたいと思っています。行政はみんなが働ける環境を作るサポート役にまわりたいですね。
ー これからの国見町がさらに楽しみですね。
(後編につづく)
Photo by Megumi Tange , Text by Motomi Matsumoto