2023.08.18
VOICE
発信する場所の賑わいがメディアとなり、まちへ広がるーー山口県下関市大丸下関店7階「JOIN083」Vol.1

対談  北尾洋二(株式会社リージョナルマネジメント代表取締役)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)

1

20203月に新生「大丸下関店」としてリニューアルオープンした山口県下関市の下関駅前に建つ大丸下関店。この百貨店7階に2020年10月10日、新たなイノベーションを起こし、その成果を発信する「JOIN083」が誕生しました。この場所を運営するのは、下関市の唐戸商店街で空き店舗をリノベーションし、創業支援を行う「創業支援カフェ KARASTA./カラスタ」の運営を行っていた北尾洋二さんです。北尾さんは下関市でリノベーションまちづくりを進めながら、より踏み込んだイノベーションへの挑戦として「JOIN083」を企画しました。北尾さんから「JOIN083」の場所づくりを相談され、今回は設計というアウトプットではなく、どうしたらインパクトのある計画にできるかを考えました。その答えが若手建築家を対象とした建築コンペの開催です。非常にタイトなスケジュールではありましたが、コロナ禍でオンライン開催にしたことが逆にスピード感を生み出しリノベーションという行為がひとつのメディアとなり新たな場所をつくり出すことに成功しています。

今回は百貨店(デパート)という場所での挑戦を試みた北尾さんと嶋田が、地方百貨店の現状を打破する布石となるプロジェクトについてお話しします。

ーー下関で出会ったまちづくりのプレーヤーと大丸下関店再生プロジェクト


嶋田
 今回は下関市での仕事に関わらせていただく中で出会った北尾洋二さんと、大丸松坂屋百貨店 大丸下関店の7階につくった人と地域とビジネスを『結び』、『開く』プラットフォーム、「JOIN083」についてお話をさせていただきます。

北尾さん、よろしくお願いします。

北尾 よろしくお願いします。


嶋田
 まず、北尾さんとの出会いですが、僕がずっとまちづくりに関わってきた福岡県北九州市と山口県下関市は関門海峡を隔ててお隣りなのですが、2019年頃、下関市の方から僕が北九州市小倉で展開してきたリノベーションまちづくりを、ぜひ下関市でもやってもらえないかとお話をいただきました。

その際に紹介していただいたのが北尾さんでした。北尾さんはすでに下関市の商店街で空き店舗を使って創業支援を行うなどの活動を展開されていたので、一緒にチームを組んでもらえないかとのお話だったのです。

実は行政側から地元のまちづくりに携わる方をご紹介いただく機会は多いのですが、感覚が違うことが多く、なかなか一緒に仕事ができる感じの方はいないのです。でも北尾さんはまったく違いました。下関でのまちづくりを、ご自身でリスクも取りながら推進されていて、リーダーシップを持って携わっていらっしゃる。またご自身のこれからのビジョンもちゃんと持たれていて、信頼ができると感じました。

北尾 そんな風に思っていただいていたんですね。嬉しいです。

嶋田 はい。さまざまな場所で人を紹介されますが、一緒に仕事をするのは断ることが多いんです。でも北尾さんは「こんな人がいるんだ!」と思うくらいいろんなことをされていて、お話ししていて一緒に仕事をしたいと思いました。

北尾さんから見て僕はどんな印象でしたか?

北尾 嶋田さんにお会いする前に書籍を読ませていただいていましたし、目的を達成するための実直な物事の進め方、筋を通しながらどんどん話を進めていく実行力など、実際にお会いして納得しました。

僕は2017年から下関市の商店街のパチンコ屋の空き店舗をリノベーションし、下関市から受託した創業支援の事業を展開しています(創業支援カフェ KARASTA. /カラスタ)。またそれから派生して商店街の空き店舗を埋める活動もやっていて、中心商店街の空き店舗をリノベーションし、そこに新たに創業する方の事業を誘致するという流れをつくる活動も行っているのですが、ちょうどその活動をしている最中に、現在は経済産業省に戻られた当時下関市副市長だった芳田直樹さんから、こういった活動をもう少し加速度的に進め、リノベーションまちづくり的なことをしていきたいという話を聞きました。

それが確か2018年、19年あたりのことで、最初は嶋田さんの話は出ていなかったのですが、それから具体的に話が進み、ほどなくしてさきほど嶋田さんが話されていた僕との出会いに繋がる感じだと思います。

嶋田 そうですね。芳田副市長が小倉のまちを見に来てくださったんです。それで「これを下関市でやるとしたらどうしたらよいか?」と相談を受けたので、「少しずつ時間をかけていくこと」、それから「地元のよいプレイヤーがいないと難しい」とお話していました。それもあって、下関市の方できっと僕と北尾さんをマッチさせるとよいんじゃないかという話になったんじゃないでしょうか。

北尾 そうだと思います。

嶋田 北尾さんはいつ頃から下関市のまちづくりに携わってきたのですか

北尾 僕はもともと、大学を卒業してから地元の出版社、タウン情報誌を手がけている会社に就職しました。その会社で取材と撮影と営業とすべてやって、それから社内の移動で広島に転勤し、企画室という何でもやる部署で資金調達や会社の私募債、つまり会社の上場するしないのタイミングにかかわり、銀行とのやりとりを学んで、あと学生の就職支援などもやっていました。

そうこうしている間に東日本大震災の年に会社をやめる決意をして起業することにしたのです。最初はタウン情報誌の延長で観光系の情報誌の編集だったり、会社の新卒採用支援、学生の就職支援や起業の手伝いをやっていました。そういう流れの中で、下関市で創業支援の施設をつくることになり、プロポーザルで僕たちの提案が採用され、本格的に創業支援活動をやっていくことになったんです。その時下関市の唐戸市場近くにある唐戸商店街につくった場所が「創業支援カフェ KARASTA. /カラスタ」(以下、「カラスタ」)です。


JOIN083のコワーキングスペース・シェアリングスペースの様子

嶋田
 なるほど。北尾さんが運営されてきた「カラスタ」は、下関市からの委託事業として始まっていたのですね。では、今回一緒にお仕事をさせていただいた大丸下関店の 「JOIN083」。これはどういった経緯で始まったプロジェクトになるかをお話しいただけますか。

北尾
 嶋田さんがおっしゃるように、「カラスタ」はあくまでも下関市からの受託業務なので、さまざまな制約がある中でやっていたんです。なので、もっと自由に、みんながふらっと立ち寄れる場所が欲しいなと思うようになっていました。「カラスタ」をやりながらある程度の手応えもあったので、もっと踏み込んで何かできるのではないかと思っていたのです。そしてそれを考えていた矢先に、たまたま下関大丸(当時)の再生計画という話が僕のところに舞い込んできました。

下関大丸(現在の大丸松坂屋百貨店 大丸下関店)は70年以上の歴史があり、戦後復興期、地元の水産関連企業(マルハグループ:大洋漁業、林兼産業など)が「大丸」を誘致して誕生したデパートです。下関地域の復興と発展とともに繁盛していましたが、21世紀に入り他の地方百貨店と同様、苦境に立っていました。そこで、下関大丸の再生計画が立ち上がったようなのですが、それを手がけたのが東京の「GINZA SIX」を企画したメンバーだったんです。

そのメンバーと下関大丸の方々と、2018年11月にお会いして、今後の下関大丸をどうしたらよいか話し合いをしました。それから、法人としての下関大丸は大丸松坂屋に吸収合併されて直営化されることになり、全館を改装。2020年3月にリニューアルオープンすることになりました。

そういった流れの中で、商店街組合の役員仲間で唐戸商店街にある質屋「ものばんく」さんが下関大丸にテナントとして入っている縁などもあり、「北尾さんが大丸下関店に入ったらどうか?」という話になりました。さきほどもお話ししたように、もっと自由に、みんながふらっと立ち寄れる場所が欲しいと思っていたので、駅近という立地の魅力や、百貨店という場所のポテンシャルに対して、僕が思い描いていたやりたかったことがここでできるのではないかと直感的に思いました。

なので、コワーキングスペースとシェアオフィスを兼ねた場所づくりができないかをお話してみたのです。百貨店では貸し出し会議室の利用は前例があったのですが、シェアオフィスやイベントスペースを兼ね備えた本格的なスタートアップ事業を支援するスタジオというのは前例がありませんでした。認めてもらえるかは分からず、提案自体はチャレンジでしたが、意外にも当時の営業本部長の北村さんがすぐにやりましょうと動いてくださり、本店にも話を繋いでくださいました。

で結局、下関大丸の再生計画の相談にのっていたはずが、自分がその中に入って事業をやることになったという訳です。こうした経緯で「JOIN083」は2020年の3月に計画を進めることが決まりました。ただこの後、コロナが本格化していくことになります。テナントが埋まっていない中途半端な状況にコロナが追い打ちをかけ、大丸がリニューアルすることを大々的にアピールすることもできず、新生大丸下関店本体は2020年3月に静かに始まりました。

(インタビュー撮影 JOIN083 日下まりあ、コワーキングスペース等撮影 Tomiyoshi

 

Text by Mitsue Nakamura