2023.10.13
VOICE
密なコミュニケーションが生み出すまちづくりのスピード感ーー泉佐野市さの町場「めぐりLab.」Vol.1

対談  西納久仁明(バリュー・リノベーションズ・さのディレクター)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)
(対談日2023年4月19日当時、現在泉佐野市副市長)

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2019年の夏頃から、大阪府泉佐野市のさの町場の再生・活性化に向けたお手伝いをしてきました。以前の記事でお伝えしたさの町場の「朝日湯」リノベーションの仕事に関わる前から、さの町場を中心にエリアリノベーションを行っていた一般社団法人バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)のアドバイザーとなり、当時泉佐野市の職員としてバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)を立ち上げ、現在は泉佐野市副市長でいらっしゃる西納久仁明さんと共にさまざまなプロジェクトを進めてきました。

今回はそのプロジェクトのひとつである「めぐり Lab.」という場所についてお話します。空き家となっていたタオル工場の建物をどう活用できるか相談を受け、女性の健康と癒しをテーマにした「めぐり Lab.」という施設をつくりました。バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の立ち上げから、最新プロジェクトであるこの「めぐり Lab.」まで、異例のスピード感で進んでいるまちづくりについて、西納さんと嶋田がお話します。

ーーさの町場の再生に取り組む「バリュー・リノベーションズ・さの」について

嶋田 今日は泉佐野市の中心市街地、さの町場のエリアリノベーション活動を通じてまち再生プロデュースを行っている、バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の西納久仁明さんと、活動の経緯や内容、そして最新プロジェクトの「めぐり Lab.」についてお話していきます。西納さん、よろしくお願いします。

西納 よろしくお願いします。

嶋田 まず、西納さんご自身の経歴と、バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の活動についてお話しいただけますか。

西納 はい。私は泉佐野市の市役所職員として、衰退が著しかった泉佐野市中心市街地にあるさの町場の再生を目指して2019年にバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)を立ち上げ、現在(2023年4月19日当時)もその活動に関わっています。この仕事に携わる前は9年ほど商工関係の仕事をして、その後は少しその仕事から離れたのですが、嶋田さんと出会う1年ほど前に市長から呼ばれ、壊滅的な状況にあったさの町場の商店街の会合に参加した際にみなさんの前で市長の命を受けてまちの再生を託されました。それが始まりでさの町場のまちづくりの仕事に携わることになったんです。

嶋田 西納さんならなんとかしてくれると。それで始まったんですね。

西納 商店街の活性化はどこの地域も課題となっていてさまざまな取り組みが行われています。しかし活性化にはなかなか繋がっていないのが現実です。その原因を考えた時、行政が日々のまちの状況をまったく理解せずに、庁舎の中だけで仕事をしていることが根本的に間違っているのではないかと思いました。言われたから見に行くような受動的なスタンスでは、実際のまちの状況は何もわからないのです。それではダメだ、自分から積極的にまちと関わっていきたいという気持ちからまずは現場に出て空気を感じ、そこから必要なものを考えていけるように、自分たちが再生していく商店街の中に事務所を構えて仕事を始めることにしました。

そして2019年7月に、泉佐野市の中心市街地エリアの衰退に歯止めをかけ、まちの再生・活性化へとつなげていく公民連携によるエリアリノベーション活動に取り組むバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)という組織を立ち上げたのです。2022年3月には法人化(一般社団法人)しました。

バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の方針と事業は以下を掲げています。

方針:
Ⅰ.自分事として地域課題に取り組む
Ⅱ.目の前の常識を疑い、変化を楽しむ
Ⅲ.無理ではなく、できることを考える
Ⅳ.ポジティブな発想で、新しいことにチャレンジする

事業:

Ⅰ.エリアリノベーション活動を通じた持続可能なまちづくり事業
Ⅱ.女性をはじめとする人のそれぞれが持つ可能性を最大化させる人材育成事業
Ⅲ.まちにある遊休不動産を活用したビジネスサポート事業
Ⅳ.人や情報をつなぐまちのプラットフォームの構築事業
Ⅴ.その他、目的を達成するために必要な事業

嶋田 僕が泉佐野市でのまちづくりに関わることになったのは、もともとは西納さんとの出会いがきっかけです。西納さんが2019年にバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)を立ち上げた時にアドバイザーの公募があり、僕がその役割を務めさせていただくことになりました。


西納 2019年7月、お寺の講堂で嶋田さんと市役所職員の方に講演会をしていただいたのですが、嶋田さんのお話はインパクトが大きかったです。市長からは「ハードルを上げたな」、「ここまでやるんだな」と言われました。笑

初夏でエアコンも効かない場所に100名を超える参加者が来てくれたのですが、みなさん最後まで席を立たずに真剣に聞いていたので、興味深かったのだと思います。

嶋田 市長さんもいらしていたので緊張しましたが、みなさんの熱量をすごく感じました。僕はさまざまな場所のまちづくりに関わっていますが、その中でも泉佐野市はスピード感があり、目に見えて成果が出ています。日本各地のさまざまな場所からお声がけをいただき出向くとみなさんやりたい気持ちは話してくださるのですが、結局自分たちでは動けない、動かないんです。そうなると僕たちとしては何もできません。ここでは西納さんがいらっしゃることで主体性を持ってまちづくりが動いているので、やりがいがあります。

組織が立ち上がってから4年が過ぎようとしていますが、17個のプロジェクトをさの町場の中につくりました。西納さんが不動産オーナーさんから物件を託され、そのプロジェクトマネージメントを行うのが僕の仕事ですが、ほかの場所にはないスピード感でまちづくりが進んでいます。そのいちばんの要因は、西納さんがまちの方々と丁寧で繊細なコミュニケーションを図ってくださっているからだと感じます。

西納 魅力的なまちの再生を行っていくには、その知見を持っている方の力を借りないと難しいと思っていましたが、それをよいかたちで進めていくために、自分がつなぎ役となってまちの人との密な関係性をつくっていかなければうまくいかないという思いがあったのです。

 

嶋田 西納さんは市役所の中でも重要な仕事を行うポジションにいらっしゃるので、普通は現場に出るような方じゃないと思うんです。でも現場志向で、いつも現場で見たこと感じたことを僕たちに詳細に教えてくださいますよね。ほんとうに困っていることを正確に教えてくださっている印象がありました。その上でこうすればよいんじゃないかという話を投げかけると、地域のオーナーさんや地域の方たちと次に協議をする時までには話をつけてくださっています。

常にその現場に居ることができない僕たちにとっては、とても仕事がしやすい環境でした。町内で意思決定しなければいけないことがあったりすると、翌々週ぐらいまでには「OKになりました」と連絡をくださいます。アクションが早いのと確実に前に進めてくれる安心感があるんです組織を立ち上げてから4年間で17件のプロジェクトが実現しているのはまちづくりにおいては驚異的な数字だと思うのですが、とにかく西納さんが地域の人たちとの意思決定を円滑に行ってくださっていることが大きいと思います。

まちづくりがよいかたちで進んでいくためには、西納さんのようなまちの人を引っ張ってくれる人材が不可欠だと思っています。僕はできることを考えることはできますが、その現地にいるわけではないので、その場所の情報を正確に共有していかないと道を間違えてしまう可能性もあるんです。そういう意味でどんな人がどれぐらいの思いを持ってまちと関わってくださっているか、それ次第で僕たち自身にできることも変わってくるような気がしています。

そういう意味では泉佐野市には西納さんがいらして、まちの人たちとの意思疎通を密に行い、的確な情報を共有いただけることでいままでのプロジェクトは進んでいる。僕は運良くご一緒することができて、前面に出るかたちではないですが、西納さんとの役割分担はしっかりできているんじゃないかなと思います。

(対談写真 撮影:中村晃)

(めぐりLab.竣工写真 撮影:中村晃)

(VRS事務所写真 提供:一般社団法人 バリュー・リノベーションズ・さの(VRS))

Text by Mitsue Nakamura