2023.09.29
VOICE
バングラデシュ・ダッカ南(旧市街)の都市開発に日本のまちづくりの知見をーーDHAKA CITY NEIGHBORHOOD UPGRADING PROJECT Vol.3

対談  三木はる香(世界銀行)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)

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ーー市民による都市改変、タクティカルアーバニズムへの期待

嶋田 僕たちの提案は、高層建物をつくろうとしていた南ダッカの行政の人たちにはある意味衝撃的だったと思うのですが、世界銀行の現地のスタッフのみなさんたちはどのように捉えてくださったんでしょうか。

三木 世界銀行の仲間たちは、新しい視点が必要だったと感じていたので、こういうやり方もあるのかというサプライズは有意義だったと思います。具体的には、南ダッカの皆さんは、すでにさまざまな海外の事例にも触れておられ、こうなりたいというビジョンが明確にあったように思います。

同時に、どのスケールや雰囲気が、当該地区に最適かなど、考えるきっかけになったと思います。また、多くの市民の方の要望に応えようとすると、どうしてもやりたいことを全部詰め込んだ計画になりますが、公民館ですので、施設の優先付けの重要性について考えるきっかけになったのではないでしょうか。ダッカの人たちは自分たちが成し遂げないといけないことがあるので、その仲だちに入っていると新たな提案はしづらくて、なので第三者としてのゲリラ的な提案がいちばん効果的だったなと思っています。

まったく違う観点かもしれませんが、バングラデシュは市民社会の中で小さい手仕事をしている人がたくさんいるんですよね。そのレベルはとても高いと思うんです。そこはもう少し大きなことに繋げていける素地であるように漠然と思うんです。私は人びとのそのものの力に希望を持っているんです。

(質の高い手仕事の小物)

嶋田 バングラデシュは銀行のマイクロファイナンスが有名ですよね。

三木 そうそう、バングラデシュには、Bangladesh Rural Advancement Committee (BRAC)のように貧困緩和を主な目的として設立されたNGOがあり、マイクロファイナンス(小口の貸付)などを低所得層に行っています。この手作りのポーチは、貧困解消や生活支援のためにBRACが運営し、村で作っている布製品などを販売するギフトショップで購入しました。こういう細かな手仕事が得意なんですね。このポーチもなかなかの作りで、精度も高い。こういう部分をもっと違う側面に生かしていけるのではと思うんです。

嶋田 産業革命を経て成熟した後にもう一度マニファクチャー文化に戻るというのであれば分かるのですが、バングラデシュの場合は産業革命以前のマニファクチャーがそのまま残っている状態ですよね。それはそれで価値だと思うのですが、僕にはなかなかイメージができないですね。

三木 大きなものに投資していくとすごく時間がかかってしまうし、民度も含めてついていけないと思うので、マニファクチャーレベルでの今持っている価値を生かしながらも、大きいことにもチャレンジしていくことができるとよいんじゃないかと個人的には思っているんです。それをいま考えようとしている公民館のプロジェクトで何らか具体化していきたいなと。

嶋田 僕たちは提案書を作成し、その内容を公共の役割ということも含めて説明し、納品したわけですが、その後は現地のみなさんに託されていますよね。いまバングラデシュは人口も増加している中で、日本というシュリンクする社会について、何十年後かには同じことが起きるということも含めてお話ししましたが、ご理解はいただけたのかなと思いつつもアクションには繋がらないのではないかなと感じている部分もあります。結局僕たちが提案したことというのはどういうかたちで動いているのでしょうか。

三木 これまでにプレイスメイキングのコンテストも実施したようです。どうも見ていると、基盤整備をしながら、タクティカル・アーバニズムにも取り組んでいこうと。その感覚が希望なのではないかなと。

嶋田 それ面白いですね。大きな産業基盤はないけど、小さな手工業はあるから、むしろタクティカル・アーバニズムでまちが成り立っていく。現地でプロポーザルコンペが行われているんですね。それは誰でも出せるんですか? 海外からも?

三木 はい。基本地元企業やJVなどかと。コンペは終わったのですが、出てきている提案は大きな話のものが多く、タクティカル・インダストリーの感覚に目を向けているものがほとんどありませんどう考えてもいまバングラデシュが直面している状況とは見合わない建物のあり方になってしまっています。

嶋田 右肩上がりの社会状況の中では、より大きなところに目が向くものですから。そういった社会を経ないと、僕たちが提案するような考え方をよいとは思えないんでしょうね。

三木 そうなんです。そういう感じなのですが、とにかくプロジェクトとしては着々と進んでいます。

嶋田 できた頃に行ってみたいですね。失った過去がある未来みたいな。日本は人口減少が世界に先んじて進んでいるし、都市のシュリンクが問題になっていて、それをどう解くかが課題。一方でバングラデシュは爆発的に人口が増えていて真逆の状況ですからね。今後を楽しみにしています。

三木 都市再生の仕事はこれから世界中でたくさん出てきそうだなと思っていて、日本は密度が高い都市においてのレジリエンスを上げる経験をたくさん積んでいるので、その知見は世界で必要とされるものだと思うんです。災害、火災や地震の時どうするかとか、防災的な視点から見たアーバンレジリエンス、都市の強靭性はどこにおいても大きなトピックになってくるでしょう。あとは水辺のあり方やゴミ処理のことなどですね。日本にはどの問題に対しても世界が参照にすべき事例がたくさんあります。

日本の知見を世界の都市と掛け算することでさまざまな課題に対して解決できる糸口をつくっていけるのではないかなと思っています

嶋田 そういうところで何かまたご一緒できたらよいなと思います。バングラデシュにも是非みなさんに行っていただきたいですね。
今日はありがとうございました。

 (対談写真撮影:丹下恵)

Text by Mitsue Nakamura