2021.02.15
VOICE
緑豊かな哲学堂公園の側で、住む人の暮らしに寄り添うマンション

5年前、奥様のご両親が長く暮らしていたマンションの一室をどうにかしたいということで、らいおん建築事務所を訪れた平井さん。その家に長く住んできたお義父さんの意思や、早く決断をしたいお義母さんの想いに加えて、同時期に奥さんのお腹の中に双子がいることが発覚し、平井さんはそれぞれの事情を抱えて悩んでいらっしゃいました。中野区の哲学堂公園の目の前にある“マンション哲学堂”がその後どのような形で生まれ変わったのか、お話を伺いました。


早く売りたいお母さんと、手放したくないお父さん

―当時、平井さんはどのような状況だったんでしょう?

平井さん:5年前にらいおん建築事務所を訪れたとき、わたしと奥さんと子ども1人の3人で、川口の一軒家に住んでいました。今もその家に暮らしています。そして2人目の子どもが双子だということが判明し、共働きの私たち夫婦だけで生活するのは難しいのでは?と考え、東京の中野に住んでいた奥さんのご両親に一緒に住んでもらえるようにお願いしたんです。


―そのご両親が住んでいたマンションが、今回お話を伺う“マンション哲学堂”だったんですね。

平井さん:はい。お義父さんは、そのマンションにとても長く住んでいたということで、自分たちが住まなくなったあとも手放したくないというお考えでした。一方、お義母さんは毎月払っていた借地料をどうにかするため、できれば早く売りたい、と。両親から相談された私自身も売るべきか、リフォーム等を行い賃貸物件として貸すべきか悩み、まずは業者に見積もりを依頼しました。

 

予想以上に低い売却価格と、高額なリフォーム費

平井さん:ところが、物件自体が築50年近かったことや借地上の分譲マンションだったこともあり、思っていたよりも売却価格の見積もりが低く出てしまいました。もう一つの選択肢だった賃貸を検討するにしても、業者からは相当手を入れないと借り手がつかないと言われ、リフォーム費の見積金額もかなり高額でした。

―物件はどのような状態だったのですか?

平井さん:古いので色んなガタがきていましたが、天井がとても低く、すき間風も入っているような状況でした。特に、お風呂はとても小さくて脱衣所が無い間取りだったのでそこがネックになっていたようでした。納得のいかない金額で売ることもできず、リフォームの見積もりも高額で困っていたところ、奥さんの友人の旦那さんがリノベーションも扱っている建築家だということを思い出し、相談に行きました。

嶋田:僕の奥さんと平井さんの奥さんが大学の同級生だったんですよね。そして当時僕の奥さんがやっていたカフェに、突然いらっしゃいました。大体いつも突然やってくるんですよね

 

実物を見てみると、古い物件だからこそのしっかりした造りと良い建材

嶋田:相談を受けてまずはとにもかくにも物件を見にいこうということで、現地を見に行きました。
実際に中に入って見てみたら、古いマンションならではの頑丈なつくりで、最近のマンションよりもむしろ良いものを使ってつくられているものでした。確かに古さはあるけれど、借りたい人は絶対にいるだろうな、と。あとは、物件のある場所も素敵だと思いました。少し駅からは歩きますが、静かだし、なによりも哲学堂公園が目の前にあって緑がとても豊か。春には桜も咲き誇る。こういう環境を望む人のイメージが湧きました。

平井さん:困り果てていたところ、嶋田さんにそのように言ってもらえたので希望がもてました。

 

入居者を先に見つけてからリノベーションの方向を決めるというユニークな仕組み

嶋田:そうはいってもリノベーションの費用はできるだけ低くしたいという平井さんの状況も理解していましたし、僕としてもお金をかけて作り上げた後に住む人を探すというより、借りる人が自由に使える方がいいかなと思って通常とは異なる方法を提案しました。つまり、先にこの物件に住みたい人を探して、それから物件をリノベーションしていく方法です。リノベーションにかかる費用はオーナーである平井さんだけでなく借りる人にも一部負担してもらい、その代わり少し家賃を低く設定する。そうすれば、借り手は自分の理想を反映した部屋に住めるし、家賃も相場より低めなので数年住めばリノベーション費用は回収できたことになる。

―ちょっと変わった仕組みだと思いますが不安はなかったんですか?

平井さん:不安はほとんどなかったです。嶋田さんに言われた「借り手の好きなように作った方が長く住んでくれる」という考え方はすっと理解できました。不動産に関して分からないことがたくさんあったのですが、嶋田さんや嶋田さんと付き合いのある不動産屋さんとのやりとりでひとつずつ解消していきました。

嶋田:この辺のエリアに詳しくて親切な不動産屋さんとつながれたのは良かったですよね。

―入居者はどのように見つけたのですか?

嶋田:僕の個人的なコミュニティに呼び掛けたり、DIYPというDIY可能物件を掲載しているサイトに載せたりしましたね。

平井さん:相談してから3か月後には借りたい人が現れて入居が決まりました。

嶋田:解体と床の張替えは工務店さんにお願いしましたが、そのほかは入居予定の方がDIYでリノベーションを行いました。ペンキを塗ったり障子を張り替えたり、棚を作ったり…らいおん建築事務所としてはその辺の作業を誰がどこまでやるかについての仕分けも行いました。

 

みんなにとってwin-winになったリノベーション

平井さん:結果的に、納得のいかない値段で売ることを回避し、自分たちに負担が少ない方法でマンションを生まれ変わらせることができました。なおかつ住む人にとっても心地のいい使い方を自由に作ってもらえたと思っているので、とてもよかったです。実は最初の入居者の方は3年後に退去されたのですが、愛着をもってきれいにつかっていただいたこともあり、すぐに次の入居者が決まりました。次の方にもできるだけ長く使ってもらえると嬉しいです。

―5年前のことを色々と思い出しながらお話してくださった平井さん。今は当時お腹にいた双子のお子さんも4歳になり、お義父さんとお義母さんに近くでお孫さんの成長を見守ってもらっているそうです。お話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

 

photo by megumi tange, text by Hanako Koga, edited by Motomi Matsumoto