2023.01.13
VOICE
閉店した老舗百貨店大食堂の復活物語。地域の活性化へ繋がるリノベーションがつくる未来「マルカンビル大食堂」vol.1

対談  小友康広(上町家守舎代表取締役)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)

1

岩手県花巻市の中心市街地にある上町商店街。その一角に花巻の人たちの日常を43年間支えたマルカン百貨店であったマルカンビルが建っています。このエリアとしてはひときわ大きな8階建ての建物ですが、どの地方都市も百貨店が窮する状況の中、マルカン百貨店も2016年に営業を終えました。
しかし今、このマルカンビルが、百貨店の6階に入っていた大食堂の復活を契機に新たな拠点として賑わいを取り戻しています。廃墟となりかけたビルの再生のみならず、街の活性化を実現した「マルカンビル大食堂」を主導した小友康広さんと、食堂を運営しながらビルの改修を行うという事業目線に寄り添った改修計画を行った嶋田が、出会いから実現するまでのプロセスについて語ります。

ーー2015年2月、リノベーションスクール@北九州での出会い

嶋田:今日は岩手県花巻市での「マルカンビル大食堂」という花巻の人たちに愛されている食堂が入るマルカンビルの再生のことについて、小友さんといろいろ思い出しながらお話ししたいと思います。小友さん、よろしくお願いします。
まず、小友さんと僕の出会いはいつでしたっけ。

小友:2015年2月に行われた第8回リノベーションスクール@北九州だったと思います。

嶋田:花巻のメンバー4人での参加でしたよね。

小友:はい。いま花巻家守舎を一緒にやっている高橋潤吉さん、高橋久美子さん、伊藤直樹さんと一緒に行きました。
高橋潤吉さんは岩手県花巻市を中心に展開する地域の総合建設会社 株式会社伊藤組の取締役で、当時5社の役員を兼任され、花巻商工会議所青年部の会長として活躍していました。高橋久美子さんは元看護師さんですが、趣味の延長で友人と「自分が欲しいと思うイベントを開催したい」という思いから「Marble Market」(オーガニック、クラフト、美を中心とした岩手県中のイケてるお店を 50 店舗以上一同に集めた 1、2 日のイベ ント)を開催し好評を得ていました。当時は自身が保有するヨガインストラクターの資格を活かし「母親と子供が楽しめるカフェとヨガ、そして小さな Mable Market が出来る空間が欲しい」と花巻市で不動産を探していたのですが、条件が折り合わず苦労していました。伊藤直樹さんは市役所で「花巻流通団地の整備」「商店街の活性化支援」など様々な街づくりに携わっていましたが、『これで本当に花巻は良くなっているのか?』という疑問を持ち続けていたそうです(2018 年 3 月に市役所を退職し、家業の農家を継ぎながら花巻家守舎役員として活動中)。
僕は大学生の時に東京に出てきました。実家が木材屋だったのでいつか継ごうと思っていたのですが、継ぐにしてもずっと地元にいてもあまり発展しないだろうなと。一度全く違う業種業態で働こうと思い、IT業界に飛び込みました。当時50人ぐらいのベンチャー企業に入って、先輩と2人で新規事業を立ち上げ、その後その事業で独立分社化させてもらいました。
今、私は東京と花巻を半々行き来する生活です。妻と子どもは東京に住んでいますが、そろそろ花巻に移り住む予定です。

嶋田:そもそもみなさんがスクールに参加されたのはどんな経緯があったんですか。

小友:僕がリノベーションスクールに出会ったのは、そもそもは花巻市長の上田東一さんが2014年5月に岩手県紫波町の「オガール紫波」を視察し、その後2014年11月に花巻市主催の「リノベーションまちづくり勉強会」で、オガール紫波を手がけた岡崎正信さんの講演を聞いたことがきっかけです。
花巻市長の上田さんは、視察を行ったことをきっかけに「花巻市でもリノベーションまちづくりの推進ができるのでは?」との思いで志の高い若手経営者などを集めて勉強会を開催したんです。当初僕はその中に入っていなかったのですが、名簿をチェックした市長によって開催3日前にリストに入れていただけたそうです。

嶋田:当時小友さんは東京にいたんですよね?

小友:当時僕は東京でも働いていたのですが、実家の父親が前年に亡くなり、2014年の1月から家業である木材店の代表に就任して月の半分ぐらいはほぼ花巻にいたので、そのタイミングでした。
勉強会に参加した時、最後に岡崎正信さんが「本気でリノベーションまちづくりを花巻でやりたいと思う人は、2015年2月に開催される北九州で開催される『ブートキャンプ』と『リノベーション スクール』に参加した方が良い。全国から同志とノウハウが集まる。ただし、行く前に相当な準備をしていかないと無駄になるので覚悟して参加してほしい。本気で参加を希望する人は、この勉強会の後に残って」と言ったんです。
その時に残ったのが僕、高橋潤吉さん、高橋久美子さん、ほか2名でした。そして、最終的に僕ら3名と、当時市役所職員だった伊藤直樹さんの4名が北九州リノベーションスクールに行くことになったんです。

嶋田:この時のリノベーションスクールに参加されてからすぐに「花巻家守舎」を設立されて、ご実家の自社ビルを再生されましたよね?

小友:はい。戻ってすぐ2015年4月〜5月中旬で体制をつくって、駅前にある築50年の自社ビル「小友ビル」の改修工事を手がけました。工事をさまざまなイベントと絡めながら、今後の集客にも繋げられるような仕掛けをいろいろと試行錯誤して2015年末にオープンに漕ぎ着けたんです。   

嶋田:すごいスピード感ですよね。ちょっと失礼な言い方になりますが、リノベーションスクール@北九州でお会いした時は線が細いという印象でしたが、その後の小友さんのアクションを見ていると、行動力とすごいスピード感があり、花巻の街を変えていくという確固たる意志を持ってアクションしている方なのだと見方が変わりました。
2015年の12月に「小友ビル」が開業して、「マルカンビル」が閉まるという話が出たのは確か割とすぐのことでしたよね。

小友:はい、2016年2月29日のことでした。その年はうるう年で。

改修前の小友ビル (写真提供:小友康広)

改修後の小友ビル4階 (写真提供:小友康広)

Text by Mitsue Nakamura