2023.01.20
VOICE
閉店した老舗百貨店大食堂の復活物語。地域の活性化へ繋がるリノベーションがつくる未来「マルカンビル大食堂」vol.2

対談  小友康広(上町家守舎代表取締役)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)

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ーー2016年2月、マルカンビル大食堂の復活へ。リノベーションにかける思い
嶋田:実は僕、マルカン百貨店が閉まる話を北九州市の水玉食堂っていう、メルカートの2階に入っている食堂の子から聞きました。あれなんとかしてくださいみたいな。笑 昭和レトロ好きのその子に言わせると、「マルカン百貨店の大食堂」はそういった人たちにとっての聖地で、象徴的な存在みたいでした。また、当時の国土交通省の官民連携室の方にも呼ばれて花巻のマルカンデパートのレストランが素晴らしくて、老若男女に愛されている場所だから、リノベーションして何とかしてほしいとも言われました。いやー、僕に言われても…… あんな大きなビル、どうにもできないでしょと思ったんですよ。マルカンビル全景 (写真提供:小友康広)

小友:そうですか、僕はなんとかなるんじゃないか、なんとかしたいと思いました。
実はマルカン百貨店は数年前から「閉店するかも」という噂が出ては消えていたので「今回もデマでは?」という話もあったのですが、「従業員に解雇通告が出たので本当らしい」と。
少し早めにその情報を聞くことができたので、表沙汰になる前にどうにかできないかと画策し、商工会議所青年部の会長だった高橋潤吉さんにマルカン百貨店の佐々木一社長にアポを取ってもらいました。初めは6階の大食堂を残してもらうため、1階〜5階の転貸権を引き受けることなど考えていたのですが、面談に行く途中でこのニュースが大々的に取り上げられてしまい、提案として受け入れてもらえない可能性を感じたので、建物を丸ごと僕たちが引き継ぎ、従業員さんの再雇用含めて食堂を残す。そういった検討をしてもらえないかとお話ししてみました。

嶋田:どうだったんですか?

小友:ちょっと無理だと思うよと言われましたね。今回閉館となった表に出ている理由は設備老朽化。43年間使い続けた設備更新と耐震不適合のふたつで、これらを改善しないとこの建物で営業することが難しいというのが表の理由ですが、そのほかにもさまざまな事情を抱えていたんです。そういったこともすべて教えていただきました。
でもそれでも諦めきれなかったんです。なので、僕らが「検討する」ことを正式に認めてもらえないかお聞きしました。
なぜかと言うと、何にしても僕らだけの力では無理でこういった場合への英知を結集するためにいろんな人の協力が必要になるので、できるだけ多くの人に協力してもらうために大騒ぎしたかったんです。ただその大騒ぎをオーナーが知らない裏で怪しい奴が動かしているとなると不信感しか生まないので、僕らに引き継ぎ検討を任せていると公に発信してほしかった。そうしたら「わかった」と。

嶋田:すごいこと考えますよね。そういう作戦、戦略は用意されていなくてもすぐに思いつくものなんでしょうか。

小友:アドリブ力で生きてる人間なので。笑 先方が懸念していることが分かったらそこを踏まないようにやる。とにかく数打って、じゃあここが駄目なのでそこを外してこんな感じにまとめますけどいいですか? みたいな感じが得意です。

嶋田:その思い入れがすごいです。当時、僕には花巻の方たちだけじゃなく、さまざまな人から話があって再生できる方法を検討してもらえないかと言われました。その場所に居る人だけじゃなくて、知っている人、訪れたことのある人がそう思う「マルカン百貨店の大食堂」の魅力って何なんだろうと。小友さんにとってはどんな場所なんですか?

小友:僕はとにかくあの場所が好きでした。ヘビーユーザーで、大学時代から含めたら、花巻に連れてきた友達とかたぶん100人以上を連れて行っていると思います。自分の家には連れて行かなくても、マルカン百貨店の大食堂に連れて行かなかった友達はいないです。僕の中の花巻の象徴的な場所なのだと思います。もしあの場所がなくなってしまうと、花巻に居る意味がなくなってしまうぐらいの感じでした。

嶋田:日本の社会では、建物を閉めることを決めました、なくなります、引き継ぐことが決定しましたみたいなことしか報道発表しない。みんなリスクを取りたくないから決まってる確実なことだけ発表するんです。
だけどマルカンビルの場合は「やれるかどうか分かんないけど検討します」みたいな発表の仕方でした。笑 

小友:それからメディアに向けて大騒ぎしました。

嶋田:結構衝撃的でしたよ。

小友:僕はIT企業で仕事をしていたので、そんな思考回路になるのかもしれません。10のプロダクトを作ろうと思った時に2か3の状態でリリースしちゃうってことと同じなのかなと。すべて決めてしまう前にリリースしてみて、その時のユーザーの反応を見てから残り4から10の機能をどうつくるか決める。いきなり全部つくろうとするのは逆にリスキーでしかありません。

嶋田:まずは大食堂を残すっていうミッションがあるから、そこに向けて検討すべきことが山のように出てくるじゃないですか。資金の問題、建物の耐震、従業員再雇用のスケジュール感とか人の集め方とか。それって一人で考えたんですか。閉館前のマルカン百貨店の大食堂 (写真提供:小友康広)

小友:そんなことないです。みんなに協力してもらって、花巻家守舎のメンバーが中心になって考えました。俺がやるからじゃなくて「マルカン百貨店の大食堂を残す」っていうことに関してはみんなが協力してくれると思っていました。2016年3月7日に閉館するという報道発表があって、その1週間後ぐらいから女子高生が1か月半にわたって署名集めたんですが、1万人もの署名が集まっているんです。人口9.2万人の街ですよ。

嶋田:その話題はニュースに取り上げられていましたね、覚えてます。花巻北高校の学生による署名活動の様子
出典:花巻市地域おこし協力隊FB https://www.facebook.com/107519589600691/posts/224937467858902/
当時掲載された新聞記事
出典:花巻旅行記 https://4travel.jp/travelogue/11112863

Text by Mitsue Nakamura