2022.06.27
VOICE
地域の課題とローコストを解決する設計と構造のアイデアー地域滞在交流施設「オガールベース」 vol.2

ー地方都市で事業を成り立たせる、徹底的に効率的な木造建築づくりの発想から

嶋田:オガールベースの平面計画を考えるにあたって、敷地が東西に長細くて、駐車場をそれなりに確保することが求められたので、ボリュームが大きい体育館をど真ん中に置いて両側をホテルで挟むプランを考えました。
オガールプラザは真ん中に図書館があるんです。それの一方が地域の食材を売るマルシェのスペース、もう片方にカフェやクリニックや保育所などが入る民間施設があります。図書館という収益事業にならない空間が、収益をつくるテナント部分に挟まれている構成になっているんです。真ん中に弱いものがあって、それを強いものが囲んで守るイメージとでも言ったらよいでしょうか。公民合築施設という言葉を初めて聞いた時にこの構成のあり方に共感しました。
ので、オガールベースも公共的な体育館を中央に置き、ホテルとテナントで挟む配置としたいと思いました。

木下:それ初めてお聞きしました。

嶋田:僕が勝手に思っている公民合築施設のイメージなんです。羊の群れが狼に守られてる感じ?でしょうか。
クライアントにも話してはいなかったと思いますが、運営のしやすさもあると思っていました。
それから、大規模な木造建築なので、建築基準法的には耐火建築物になるため、建物を3つの分棟としてそれぞれの建物を準耐火建築物にして建築確認を通せるようにしました。
提案当時は具体的なオペレーションが決まっていたわけではないので、事業者からは特に要望はなかったのです。ロジックも経験もない建物をつくろうとしていたので、ホテルのフロントから体育館へのアプローチのしやすさを優先しましたが、そのことでフロントから遠くなる客室も出てきたりしたので、最終的には全体の事業性の観点からこのプランが採用されたと考えています。

嶋田:この建物の運営は株式会社オガールベースという特定目的会社をつくって岡崎さんがそこの代表になり、資金を集めて町から土地を借りてこの建物を建て、運営もしているというかたちです。土地だけは公有地ですが、ほかは純然たる民間事業です。岡崎さんから初めに求められたのは、コストを抑えること、あとは地域にお金を還元すること、計画的には2階がホテル、1階はテナントを入れることが決まっていたので、用途の違いによる耐力壁の配置が問題になると予想され、実際にそこに頭を悩ませました。それについて当時をふりかえっていかがでしょうか。

木下:全体的なコスト設定が相当厳しかったですよね。このプロジェクトが始まった当時は東日本大震災からそれほど日が経っていなかったので資材の高騰も激しくて、そんな中で周りの公共施設は坪100万円を超えてしまうぐらいの状況でした。そのような中で具体的に坪60万円で建てることが求めらた。

嶋田:むーってなりましたよね。笑

木下:無理じゃないかなと思うハードルの設定で、その時はえーっと思ったのですが、ただ設計する嶋田さんは旧来の建築家的考え方とは違い、岡崎さん側の考え方をしていました。このプロジェクトを成功させるために、どう作品をつくるかではなく、建築はひとつのコマであればよいと考えていらっしゃいました。全体の思考がしっかりしていたので、構造も事業として成り立つあり方にあてはまるものを考えていかないといけないなと思いました。

嶋田:僕はあまり難しく考えない方なので、坪単価60万円木造2階建てと言われた時、木造2階建ての住宅がずらずら連なってひとつの建築ができるイメージを持てたんですよね。ホテルの部屋は住宅に比べたら小さいし、水周りもすべての部屋には必要ないと言われていたので、いわゆる木造2階建て住宅をつくる、それに近いものを意識しました。

木下:そうですね。嶋田さんはこうするべきという目標とそれに向けるノリがよい意味で軽い。で、いけるでしょと言うんですよね。笑 とはいっても大規模木造をつくる不安を抱えながら、とにかくローコストに向けての具体的な挑戦が始まりましたね。木造でローコストにするには、とにかく木材を徹底的に少なくかつ効率的に使うようにしないといけない。木造は尺寸法で決まっているので、0.91の倍数ですべての部材を決めていった方が有利なんですね。東棟は1階が商業施設、2階が宿泊施設で、ホテル客室の幅が2,730mm、つまり910mmの3倍だとうまくはまってくるので、架構スパンを2,730mmピッチとし、短手の方は合板の端材が出ないように4,550mm、3,640mmで刻んで確実に流通材の4m、5m材が無駄なく加工して使えるスパン設定をしました。

嶋田:羽柄材は910mmだと効率がよいのは分かりますが、柱や梁もそれをベースに長さが決まっているんでしょうか?
たとえば梁に使う木材は2,730mm、3,640mmの寸法で使いやすいように、流通材の寸法が決められているものなんですか?

木下:結果的にはそうですね。2,730mmピッチの場合は3m材を使うと端部に接合部の仕口加工が入ってくることも踏まえて効率よい材料寸法ということになります。

嶋田:3,640mmだったら4m材。

木下:そうです。

嶋田:ゴミがでないですよね。

木下:はい、それが徹底できましたね。

嶋田:一般的に4,000㎡を超える木造建築は大断面部材を使いたい規模なのでしょうか?

木下:そうですね。この建物の製品検査に行った時「規模の割に部材が小さいですね」と言われました。なので、一般的な大規模木造にくらべて、かなりスレンダーな部材で組み立てられていると思います。小断面部材を使って構成した意図は、木材量を減らすこともありますが、部材を一般的な材料を量産する工場でつくれるからです。木材は小断面、中断面、大断面とありますが、大断面になってしまうと大きな集成材加工工場にオーダーしないといけないんです。でも中断面以下に抑えると、地元の工場でも加工できます。実はこれは稲山先生も実行されていて、オガールプラザの梁せいも390mm以下に抑えられています。それは引き継がせていただきました。

嶋田:材料が確保しやすいってことですよね。

木下:そうです。この建物の場合は幅210mm、梁せい390mm以下の材を主に使っているのですが、210mmの材を半分にすると105mm幅になって、3寸五分の材となり、これは一般流通しているんです。なので、大きい断面をつくる時はふたつの流通材をスズリボルトで縫って組み合わせてつくるといったことをしました。

嶋田:そこまで細かく構造図を見ていなかったですが、そういった工夫をした箇所は結構あったんですか?

木下:はい。使えるところはやっていました。あと105mm幅、120mm幅の材であれば梁端の仕口用金物も量産されているので、接合部についても一般流通している金物を利用できるメリットがありました。

嶋田:構造もそうですが、建築の外壁や窓サッシなども住宅用建材とし、一般流通している手に入れやすい材料にしました。

木下:それから、この建物において、構造家にとってのいちばんの腕の振るいどころは中央の体育館なのですが、スパンが約25m。木造としてはかなり大スパンを飛ばす架構が必要でした。大きな気積をつくることと、岡崎さんからバレーボール専用コートとして使い勝手の観点から、ボールの壁打ちができるように周辺の壁はRC造にしてほしいと言われました。ので、基壇部分をコンクリートで立ち上げています。地味な調整をしながら、構造申請的には申請機関と協議して、混構造になるのかどうかなど検討しました。

嶋田:これは基礎が高いってことになっているんですか?

木下:はい、一応そのようにして申請しています。純粋な混構造としてしまうと、必要ないレギュレーションがかかって大変なので、かからないように整理しています。
それから、バレーボール専用コートは床から7.7mの高さと、気積の確保が必要で、高さが必要な分なるべく軸力系の構造で成り立たせた方が効率がよいんです。そのため、頬杖という斜めの材を入れていますが、斜めの部材の入れ方によっては気積が確保できないので、頬杖をさらに一段折り曲げて外側に逃がして配置し、無理な応力が生じる箇所は鉄骨の頰杖を使って抑え込むという工夫をして架構を構成しています。

嶋田:プロの国際大会ができる高さみたいなのがあるんですよね。

木下:はいそうです。最初はもっと屋根が高かったと思うのですが、減額調整でぎりぎりまで下げました。それに伴って頰杖も曲がっていったという感じですよね。そんな経緯がありました。
徹底的に効率的な架構を目指して、実際にどれぐらい効率的な木材量を実現できたのかですが、単位面積あたりの空間に架けるために使った木材量を算出してみると、
オガールベースが0.1㎥(EAST棟が0.103㎥、WEST1と体育館が0.094㎥、WEST2 棟が0.096㎥)を切るぐらいでした。
過去の作品で一般的な大規模木構造架構がどれぐらい構造材を使っているかをリサーチしたのですが、だいたい0.15〜0.2㎥になります。オガールベースはそれに比べると2/3から半分ぐらいの木材量で空間ができていることになります。
ちなみに僕が目標としていた稲山先生のオガールプラザは参考値として西棟が0.119㎥、中央棟が0.135㎥ということで、当初の岡崎さんのオーダーには応えることができたのではないかと思います。

Text by Mitsue Nakamura